放浪の向こう側 Another World

海外放浪記/洋楽翻訳/個人コラム

洋楽の和訳 カバーが原曲を越えてる Hallelujah  ージェフ・バックリィ―

原曲はレナード・コーエン1984年にリリース。

ジェフ・バックリィーのカバーは1994年に発表され、彼の唯一のコンプリートアルバム「Grace」の中に収録されている。

しかし、その3年後、彼は30歳という若さでこの世を去った。

彼の死からしばらくの年月が流れ、2004年には雑誌Rolling Stonesの、時代を超えた名

曲500選に選ばれている。

 

私はむしろ原曲を知らずに、ジェフ・バックリィーのカバーから入った。

初めて聴いたのは、たかだか数年前のことだ。

 

ニュージーランドはTairua(タイルア)という小さな町にあるバックパッカーに泊まっていた時。

その日は他の宿泊客が一人もおらず、私は一人でリビングにいた。

テレビは旧式で、使い方がよく分からずあきらめ

その隣にあったラジオを聴いていた。

その時に流れてきたのが、ジェフ・バックリィーのHallelujahだった。

知らない町に一人で泊まっていたんだけれど、なぜか心地良い安心感があって。

どことなしか、祝福されているような気持ちになったんだ。

 

ハレルヤって「神を褒め称えよ」とかいう意味だったっけかな。

知らない土地の、ラジオから聴こえるこの歌が讃美歌のようでもあり

あぁ、なんか一瞬にわかクリスチャンになったりもして。

 

しかし、実際に歌詞を見ると、どうやらこれはラブ・ソングで

愛の苦悩を歌ったものらしいことが分かる。

Hallelujahを所々、I love youに置き換えて訳すとしっくりくると言っている人がいて、

本当にその通りだと思った。

I love you という言葉だけではなく、「愛」というものを神聖な言葉を用いて

ここではHallelujahと表現しているんじゃないかな。

この曲の解釈は色々あり、宗教的ソングだと言う人もいるけれど、

総じて言うと私の解釈はやっぱり、ちょっとせつないラブ・ソングなんだ。

 


Jeff Buckley - Hallelujah (Official Video)

 

 Well I've heard there was a secret chord 

この世には、秘密のコードがあるって聞いたことがあるんだ

That David played and it pleased the Lord

それでダビデが演奏して、主人を喜ばせたんだってさ

But you don't really care for music, do you? 

でも君は音楽なんて全然興味ないだろ?

Well it goes like this: 

ちなみにそのコード進行っていうのが

The fourth, the fifth, the minor fall and the major lift

 C, F, G , A minor , Fで 

The baffled king composing Hallelujah

苦悩の果てに王が作曲した“ハレルヤ”(愛の歌)だったんだ

 

Hallelujah

Hallelujah

Hallelujah

Hallelujah

 

Well your faith was strong but you needed proof

君の信念はとても強いけれど、それを証明する何かを必要としていた

You saw her bathing on the roof

そして、君は彼女が屋根の上で体を洗っているところを見てしまったんだ

Her beauty and the monnlight overthrew ya

その時の彼女のその美しさは月の光とともに君の上に降り注いでいた

She tied you to her kitchen chair 

And she broke your throne and she cut your hair

彼女は君を台所の椅子に縛り付けて、

君の王位を叩き壊して、君の髪も切ってしまった

And from your lips she drew the Hallelujah 

そして君の唇からハレルヤ(愛してる)という言葉をひきだしたんだ

 

Hallelujah

Hallelujah

Hallelujah

Hallelujah

 

But baby I've been here before 

でもね、ベイビー、この場所には前にも来たことがあるんだ

I've seen this room and I've walked this floor

この部屋も見たことあるし、この床も歩いたことがある。

You know, I used to live alone before I knew ya

そうさ、君と出会う前はかつてこの場所に独りで住んでいたんだから。

And I've seen your flag on the marble arch

それから僕は凱旋門にはためく君の旗を見て

And love is not a victory march

そして悟ったんだ。

愛は勝利を称える行進曲なんかではなく

It's a cold and it's a broken Hallelujah

冷たく歪んだハレルヤなんだと

 

Hallelujah

Hallelujah

Hallelujah

Hallelujah

 

Well there was a time when you let me know

What's really going on below 

何が僕たちの水面下で起こっているかを

君が僕に教えてくれるための時間はあったけれど

But now you never show that to me do ya

でも、君は決してそれを打ち明けてはくれないね

But remember when I moved in you 

思い出してほしいんだ、僕が君の場所に引っ越してきた時

And the holy dove was moving too

愛と平和の象徴である鳩も、僕たちを祝福するかのようにやって来たんだ

And every breath we drew was Hallelujah

そして僕たちの息づかいの、そのすべてがハレルヤ(愛)を描いていたんだよ

 

Hallelujah

Hallelujah

Hallelujah

Hallelujah

 

Maybe there's a God above 

たぶん、神様は僕たちの頭上にいる

But all I've ever learned from love

でも僕が愛というものから学んだすべてのことは

Was how to shoot somebody who outdrew ya

傷つくことを恐れるが故の自己防衛ばかりだった

And it's not a cry that you hear at night 

そして君が夜な夜な耳にするのは、涙の音でなくて

It's not somebody who's seen the light 

光のほうを見続けている、誰かでもない

It's a cold and it's a broken Hallelujah

それは冷たく歪んだ、ハレルヤなんだ

 

Hallelujah

Hallelujah

Hallelujah

Hallelujah

 

【補足&個人的に好きなフレーズ】

 まず、コード進行であるが、曲の冒頭で

The fourth, the fifth, the minor fall and the major lift

 C, F, G , A minor , F

と歌詞にある通り、実際にこの曲はCコードで始まっている。

<参考元:Wikipedia

 

次に、2か所にでてくるDrew(Drawの過去形)という単語。

同じ単語を違う意味で詩的に使い分けている、このセンスが個人的にツボです。 

①And from your lips she drew the Hallelujah

 

②And every breath we drew was Hallelujah

 

Drawという単語には、絵画などを描くという意味と

~を引っ張る、引き出す という意味があるんだけれど

①の、相手の唇から愛してるという言葉を引き出す(相手に愛していると言わせる)と、

②息づかいのすべてが愛を描く

うんうん、なんとも良い表現だ。

 

続いて、終盤に出てくる

Was how to shoot somebody who outdrew ya

 

これを直訳すると、(愛から学んだのは)誰かに撃たれる前に撃つ

つまり、誰かに傷つけられる前に誰かを傷つける

なんだけれど、愛に傷ついた人々が無意識のうちに身に着けてしまうのは

攻撃性の場合もあるけれど、これ以上傷つかないための

自己防衛の方がなんだかしっくりきたので

ここは、傷つくことを恐れるが故の自己防衛ばかりだったと訳してみました。

 

そして、最後の broken Hallelujah

歪んだハレルヤ。

曲の冒頭では、あれほど幸せの合言葉のように語られた「ハレルヤ」が

最後には、冷たく冷え切って、歪んだものになってしまう。

これはとっても現実的なお話…。

愛によって傷つき、神からも裏切られたような気持ちになったんだろう。

 

ちなみに、かの有名なTime誌はこの曲を「人間の根源を包括した小さな胞子のよう

に大切に扱っていて、風にはためく白帆のように、彼の歌声は歓喜と悲哀の間(between glory and sadness)を揺らめきながら優美に歌い上げている。これは、今世紀における最も偉大な曲のひとつである」と絶賛している。

 

この曲には聖書に出てくるお話を彷彿とさせる内容もあって

少しゴスペルの要素も入っているんだと思うけれど、

宗教的な解釈は今回は割愛。

そこも追及したら、宗教観における深い意味があって、

解釈が違ってくるかもしれないけれど。

個人的にはこれ以上追及すると、果てがないような気がして。(という言い訳)

 

今日もまたこうやって自分の頭の中であれこれ張り巡らせ、

曲が抱いている世界観に浸っているのでした。

 

 

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